デカチンポウイルス〜最初の感染者【第1話】
🕑 Added 2018-05-29 14:48:54 +0000 UTC
もう慣れてしまった庶務3課の目につく白い床の照りの中で沢村は頭を抱えていた。草岡から渡された資料にはペニス増大のメカニズムなどが詳細に書かれており、今回の治験の承諾書が入っていた。
「2〜4週間の投薬でどれだけの成果が出るか確認。最低で1cm最大で3cm程度の増大を期待している。」
と薬の説明には書いてあった。
久しぶりに仕事だ。
しかしその内容がこれか。
治験前には結果を比較するために身体測定がある旨も書類には書かれていた。その際に平常時の陰茎の長さと太さ、包皮の具合や睾丸の大きさや重さを調べる項目もあり、勃起させた状態で同様の検査を行うことも書かれていた。更に一度、研究員の前で射精し、精液の検査もあるらしい。これは量や飛距離、射精の勢いを測る為のものでもあるようで、一人で個室で精液だけを採取するわけにはいかないのだそうだ。
おまけに承諾書や資料と一緒に渡された
問診票。これには
「陰毛が生え始めた時期は?」
「初めての射精はいつか?その方法は?」
「包皮の普段の状態は?露茎の場合はいつ頃、どのような手段で剥けたか?」
「初めての性行為はいつか?」
など、おおよそ関係ないとしか思われない内容が盛りだくさんであった。
それらも全て陰茎のサイズや行動パターンのデータ採取のためのものだと説明を受けたが
「まるでAVのインタビューだな。」そう言って苦笑いしながら書類の束をカバンにしまう。どうせ家には今1人だ。ゆっくり考えてもいいだろう。
本来ならば、セクハラじみたこれらの問診を無視すれば、治験も立派な仕事の一つと受け入れられたかもしれないが、沢村にはもう一つ気がかりなのが薬の投与方法である。
口頭で受けた説明であったが、服薬するのではなく、睾丸に直接注入するのだと言われた。
「注入?」
「注入です。」
「…どうやって?」
「それは資料の方に詳細がありますので…。」
草岡に口を濁された説明が気にかかる。資料を見ても「尿道カテーテル経由」「細胞下注射」との文字があるが、不穏な予感しかしない。PCで調べようかとも思ったが、会社のPCで履歴が残り、妙な性癖を持ってると思われても不本意だ。仕方なく自身のスマホを取り出して検索することにした。出てきた画像を見て沢村がますます頭を抱えてしまったのは言うまでもない。
「陰毛が生え始めた時期は?」
「小学6年の修学旅行では既にチョロっと。ですので11歳くらいですかね。」
「初めての射精はいつですか?そして、その方法は?」
「中学1年の夏休みの時に部活の先輩に「シコらないと男じゃない」と言われて、シコり方を習いました。オナニーで精通しましたね。」
「包皮の普段の状態は?露茎の場合はいつ頃、どのような手段で剥けたましたか?」
「常に剥けてます。中学の時に親父と銭湯に行って、剥き方を教えられてからです。中2の時には完全に剥けましたね。」
「初めての性行為はいつですか?」
「高校2年の時なので17歳です。初めての彼女と行為しました。」
しっかりとスーツを着て手を軽く握り膝の上に置き、シルバーフレームの理知的な眼鏡をかけて白衣姿の男から投げつけられる猥褻な質問に笑顔を絶やさず答えていく。
変態向けのアダルトビデオみたいだと思いながら、ここで変に恥じらったりすればますます変な気が起きそうで、沢村は開き直って堂々と対応することにした。
こんな質問を受けなければならない理由はただ一つ。沢村は治験の話を承諾していた。最初から予定されていたことだが、やはり気分の良いものではない。
草岡もそれは理解してくれていたようで、研究者的に、むしろ冷たすぎるくらいの抑揚で淡々と質問を読み上げ、沢村の返答に合わせてPCのキーボードを叩いている。
最初治験の話をされた時はマッドサイエンティストのような印象を受けたが、こうして見るとうちの会社に所属した研究員なのだとわかる。彼はどこまでも忠実に社の方針に従って自身の能力を活かして研究を重ねているだけなのだ。
その結果がペニス増大薬というのはなんともな話な気もするが、世の中にはそれだけ自身のブツに悩み、それを薬や手術の力を借りて治そうと考える人が数多いるのだろう。需要がある体の悩みに答える、これは製薬会社の社訓としては立派なものだろう。ただやはりそこ以外に手を差し伸べる分野がなかったのか、なぜ、何がどうなって草岡がペニス増大薬などを開発することになったのか、知ると怖い気がして、気にかけないようにしていた。
「では問診は以上で終了です。続いて身体検査に移らせていただきます。」
「はい。」
はりつけた笑顔のままで答えて椅子から立ち上がったが、内心は「やはりやらなければならないのか…。」とうんざりした気持ちもあった。
「最初にお渡しした資料にあったように検査は基本的に全裸で受けていただきます。寒さを感じた際は部屋の後ろのカゴにある毛布をご自由にお使いになってください。」
「わかりました。」
「では、大変申し訳ないのですがここで服を脱いでいただけますか。」
「大丈夫です。承知しております。」
そう言うと草岡は気を使ってか背を向けてくれたが、結局検査が始まったらまたこちらを見るのだと思うと、なんの気休めにもならなかった。
仕方なくスーツの上着を脱ぎ、ネクタイをゆるめ始めると
「そうだ、お伝えすることがありました。」
と草岡が背を向けたまま話し始めた。
「なんでしょうか?」
上はYシャツに下はボクサーパンツという間抜けな姿のまま返事をする。
「今回の治験には合計で12名の方が参加されています。1人1人に個室をご用意するはずだったのですが、こちらの手違いで1組だけ3人で相部屋になって頂くことになってしまいまして…つきましては私どもの身内である沢村さんに、その相部屋の件を了承いただけたらと思いまして…。」
そんな話は初耳だったが、たしかに外部からの被験者にその仕打ちでは会社の名前が廃ってしまうだろう。別に部屋にいる時まで全裸でいる必要はないだろうし、仕方あるまい。
「わかりました。可能ですよ。」
もうその頃にはパンツ一丁になりながら沢村は答えた。