花園パンデモニウム(前編)
🕑 Added 2020-11-27 12:03:07 +0000 UTC
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とんでもないお鉢が回ってきた。
豪邸の相続人に選ばれたのだ。
曰く、母の姉の義父の外国の……、とにかくほとんど無縁な誰かの邸宅らしい。海外出身で会ったことすらない御仁には感謝の念に堪えないが、何分それ以外の感慨が湧かない。失踪というのも不憫な話、とはいえ思わぬ僥倖には、天涯孤独というのも悪くないななどと思う程度であった。
遺産、豪邸、しかも、メイド付き。
そこに一抹の不安があるとすれば、海外だという程度のもの。
こんな幸せなことも他にあるまい。
意気揚々と俺は、迎えの車に乗り込んだのだった。
だったのだが。
「一体、いつになったら着くんだ……」
出発から既に1日、薄暗いトンネルに入ったと思えば、これはフェリーだろうか、何らかの乗り物に積み込まれたらしかった。すぐ着くと言ったっきり運転手は戻ってこない。続くのは猛烈な振動と何処かへ連れられて行く感覚のみ。一抹の不安は既に一掬程度になりつつある。
そろそろ無聊も限界に近い。
「誘拐だったりしないよな。…………ん?」
耳をすませば、何か話し声。どうも少女のものらしい。だが、遠くくぐもって良くは聞こえなかった。
何が起こっている?
大きくした耳を壁に当て、必死にその声を手繰り寄せようとした。
だが、お返しに来たのは。
「どこに……うわああっ!?」
車全体が跳ね上げられるような、とてつもない激震だった。
「おいおいおい!!?」
そのままがちゃがちゃと引っ掻き回され、かき回され。
それが落ち着くまでのたっぷり100秒。もう数秒遅ければ、俺は胃の中身と再会していただろう。
そして、静寂を切り開く眩いばかりの光が頭上に広がったと思えば。
「ようこそいらっしゃいました。長旅大変でございましたね」
揺れる鈴に似た、軽やかな少女の声、それと、逆光で現れた大きな人影が目に飛び込んできた。
陽の光を背負って謎の影。どうも髪を二つに結っているらしく、側頭部から豊かに髪が流れ出している。その服装はどうもメイドのそれのようで、ふわふわとしたエプロンシャツと頭のカチューシャだけが輪郭から伺い知れた。
だが、どうも様子がおかしい。
「あ、あぁ。…………おい、どうしてそんな高いところに……?」
車を囲む塀の上、少女の影は遠く高く、その半身だけを覗かせていた。ラプンツェルのようにこちらへ薄いベージュの髪を垂らしているのだが、その長さも尋常ではない。おそらく、2mはくだらないだろう。
何が起こっている?
疑問符だらけの頭の中。一方の人影はまるで平静で。
「あら、箱から出られないのですか? それなら、少し失礼いたしますね」
そう言いながら、こちらへ腕を伸ばしてきたのだ。
壁の向こう側から。
そんな、馬鹿な。
それではまるで。
彼女が巨人かのようじゃないか。
そして、脳裏に浮かぶ一つの言葉。
“巨人種”。
「まさか、……わ、わああ!?」
そんなことを思った、次の瞬間にはもう俺は上空だった。
メイドの巨大な腕に掴まれ、箱の中から引き上げられてしまったのだ。
「ふふっ、驚きすぎです♪ どうも、お初にお目にかかります。レティシアでございます」
猫のように俺を抱き上げる巨人種メイド。その身長は5mは下るまい。
「はっ、放せ! いや、高っ、お、下ろしてくれ……!!」
「あら、もしかしてこの国は初めてですか? ……そう、それはそれは。ふふっ、これでよろしいでしょうか?」
「あ、ああ……」
まったく、とんだメイドだ。
不平をかこちつつ、ようやくまともにその顔を見上げる俺。
そして、ずいぶん若いな、と思ったっきり。
言葉をなくしてしまうのだ。
「あの、あるじ様?」
怪訝な顔をするメイド。
それでも俺は、ほうけて言葉が出なかった。
だって。
思わず自失してしまう程、可憐だったのだ。
「? レティシアの顔に何かついてますか?」
それは、やや幼さを残す童顔美少女。長いまつげでぱっちりとした眼が、色素の薄いその髪が、どこか妖精めいた儚さを醸し出している。こんなに巨大なのにだ。長いツーサイドアップも腰元までゆったりとしていて、侍女というよりご令嬢のよう。じっとしていれば人形と見まごうほどの少女だった。
だが、その存在を生々しくしているのはご自慢の体つき。余裕あるつくりのメイド服ですらパツパツに張りつめさせる乳房に尻が、視界の中で実在感を主張するのだ。15,6歳だろうにその肉体は凶暴で、殺人的なエロスを醸し出してしまっている。それを下から見上げるのだから迫力は圧巻の一言だった。上空で大きく張り出す下乳があまりに重そうで、降ってきたらと恐怖すら覚えるほどだ。
こんな美少女と暮らせるなんて。
しかも、俺のメイドとして。
思わず飛び上がりそうなほどの喜びに震える俺。
その体が、物理的に跳ね上がったのはその直後のことだった。
「ご主人様着いたんですかぁ?」
「だめよジルベール! 足元をよく見なさい!」
幼女メイドが無造作に近づいてきたのだ。少女が立ててはいけない轟音に地響き、それを追う年長メイドもまた、ヒールを恐ろしい重々しさで振り下ろしている。
500㎝はある身長の、美少女美幼女がわらわらと、5人、いや、10人。
俺の周りに集結し、ぐるりとメイド服の森で取り囲む。
気圧されてしまうのも無理もないだろう。
一方彼女はどこ吹く風。
「では、これから何卒よろしくお願いします。ご主人様♪」
それから、レティシアがカーテシーで挨拶をすると。
「あ、あぁ……」
それに倣うメイドらの威容に圧倒され、俺の声は震えていた。
§
待っていたのは、夢のような生活だった。
甲斐甲斐しく、美少女たちが世話をしてくれるのだ。
比較的体が小さいからと、普段は12歳のジルベールが世話をしてくれた。色素の薄い外国人ロリ、それでもその身長は400㎝を優に超える巨大娘なのだ。軽々と俺を腕の中に抱き上げると、仔犬のようにあちこちへと連れていってくれた。薄い金髪の、ロングヘア―を幼女然と甘く漂わせ、無邪気そうなパッチリお目々にちんまりした体、その中に俺を包み込むのだから倒錯感はいや増すばかり。しかも、ティーカップのソーサー程度に膨らみ始めた胸が独特の柔らかさで俺を受け取るのだから言葉もない。真っ赤になりながらうつむいて、足元で交互に現れる白ストあんよを眺める他なかった。
けれど実際のところ、彼女らの手を借りないで何が出来るだろう? 自力でできることなどほとんどないのだ。ドアも開けられない、椅子についても届かない。朝は優しげなリリーに起こされ、食事はジルに、日中はレティシアがやってきて、再びジル、トイレの補助は丁重に断ったが、溺れる可能性がある以上手桶での入浴はリリーの助けを免れなかった。
「もうよろしいですか? ではお拭きしますね」
ふわふわのタオルを持ってやってくる、銀髪ショート娘。こちらの気持ちを和らげるその柔和な視線に裸を晒すのが恥ずかしく、どうもドギマギしてしまう。しかもタオルの中に身を投げ出せば、絶妙な力加減で体を拭いてくれるのだ。その優しさに直に触れたようで気恥ずかしさは倍増、しかも、剥き身の肌や股間を触られまくるのだから、何度途中で手を止めてもらったかわからない。
「申し訳ありません、力が強すぎましたか……?」
「いや、そうではなくて……」
それから、下半身の異変に気づくと。
「……もうっ」
少し頬を赤らめるリリー。
それから、プイっと銀髪を揺らしそっぽを向くと。
クスリとこちらを見下ろし笑うのだ。
巨人種たちに優しく接してもらえる、その気分の良さといったら。
俺はホクホクだった。
けれど、そんなある日のこと。
試しに俺は、家の中を散策してみていた。扉も開けられないサイズの豪邸、連れ出されない限り移動もままならないせいで、自力で出歩くのはこれが初めてだった。心配なのか、どうも俺を一人にしたくないらしい。
そこへ、飛び切りの美少女がやってくる。スラリと背の高く、だのにどこか童顔な妖精メイド。レティシアだった。歩く度ぴょこぴょこ揺れるツインテールがかわいらしいが、一緒にバウンドする乳の主張には勝てないらしい。その肉感は華奢な容姿に似つかわしくない重々しさで、乳尻の分どれほど体重が加算されているかと思うと、どうにも高揚を禁じ得なかった。
ちょうど、脚も疲れてきたところだ。
悲しいかなほんの少ししか探索できなかったが仕方ない。気散じを手伝わせようと、近寄る巨躯に声をかけた。
だが。
「あら? ご主人様?」
きょろきょろとあたりを見回す巨人種娘。
俺はすぐ近く、胸の真下に立っているというのに。
「なっ!? お、おい、ここだ! ばかっ、気づけって!!」
こんな屈辱なことってない。ムキになって俺は怒鳴りつけた。けれど相変わらずレティシアはあたりを探すばかり。そしてくるりと後ろを向くと。
「声はするんですけどね……きゃっ!?」
大きく張り出した尻で、飛び跳ねる俺を跳ね飛ばしたのだ。もんどり打ち宙を飛ぶ俺の体。そしてゴロゴロと床を転がれば、もはや言葉もなくうずくまるだけだった。
「ごめんなさい、まさかそんなところにいるなんて」
「……いいから、早く起こしてくれ」
やっと呼吸を取り戻すと、呻くように俺は言った。たかが振り向いただけの尻で横殴りにされて、ここまで吹き飛ばされたなんて。俄かには信じたくない屈辱だが、未だにそのハリある尻の重みは体を軋ませている。叩きのめされて、俺は言葉を失うばかりだ。
「ああ、申し訳ありません。でも……、ふふっ♪ まさか胸の影で隠れるほどだなんて♪ おチビさんですね♪ チ~ビ♪」
「なっ!?」
突然の侮蔑的な単語に思わず言葉を失う。レティシアだ。見目麗しいその姿は儚げで、薄幸の美少女のような印象さえ与える。それが、チビ?
「どこでそんな言葉を覚えたんだ?」
「主様が思ってるより世界はずっとずっと広いんですよ~?」
「その減らず口をやめろと言ってるんだ!!」
「あはっ♡ 真っ赤になった顔、すっごく無様ですね♡」
「ぶ、無様……!?」
それから、ようやくその本性に気づく。
このメイド、とてつもなく口が悪いのだ。それはあの、色素の薄く儚げな印象がぶっ飛んでしまう程。見た目の裏切ることといったら甚だしく、顔と本性がまるで噛み合ってない。その分発言の威力は格別で、おちょくられる度俺はムキになってしまう。年相応にクスクス笑う、それすらどこかバカにされているようで。それでも実質27倍の体格差を前にして、当惑する他ない。
「もっと主人への敬意を持ったらどうだ?」
「知らない言葉ですね♪」
「お前……!」
クスクスと侮蔑的な態度を崩さない小生意気メイド。最初の印象を返してほしい。
「うふふっ♡ レティシア、お話して疲れちゃいました♪ そうですね、ちょうどそこは私の部屋ですし……」
「おいこらっ! 放せ、どこに連れてくんだ!?」
「うふふっ♪ 私には敵わないこと、わからないんですか? おバカさん♪」
そのまま俺を抱き上げ、真正面のドアを開く巨人種侍女。そうすれば、フワッと俺を包み込むレティシアの香り。間違いない。それは彼女の毎日過ごす居室のようだ。
「そこに座っていてくださいね」
「いいから、もう帰してくれ……」
「イヤです♡」
扉を閉じながら、軽やかにいう華奢な後ろ姿。
「お、俺を誰だと思ってる!? お前の主人だぞ? いうことを聞け。さもないと……」
「さもないと?」
「……っ」
「あはっ♪ どうしたんですか? 何も言えないんですか? ざぁこ♡♡」
不遜に笑い飛ばす侍女を、俺はキッとねめつける。けれど、そんな主の視線もどこ吹く風、レティシアは口を隠しクスクス笑うばかりだ。
だが、そんな笑いも長くは続かなかった。
「小さいのがわるいんですよ? クッションにもなりませんからね♪ もし私に座り潰されたら……」
そう口にした途端、急に口をつぐんでしまったのだ。
「……」
「なんだ?」
途端に醸し出される、威圧感。何を考えているかわからない、それが無性に恐怖を掻き立てるのだ。だってその体は重量比27倍のむちむちボディ、その足でさえ俺の上半身より大きい。そんな存在が、底知れない視線で上から見下ろしてくる。
そして、くるっと後ろを向くと。
少しお尻を払って。
そのまま。
「…………」
腰を下ろしたのだ。