境界線上のヴィーゼ
🕑 Added 2020-08-31 11:57:39 +0000 UTC
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世にくだらないことの数あれど、居場所のないパーティーほど馬鹿馬鹿しいこともない。成り上がりの父を持つのも善し悪しというもので、それも今となってはかつての栄光、しかも彼亡きあとの惰性で招かれたとあれば、いよいよ付き合ってはいられなかった。
「そうですね、言われてみれば、たしかに」
自分でも何を話しているのかわからない。自動的にマダムたちに応対する、それだけでいいし、それ以上は必要ないのだ。向こうもどこまで俺に会話を求めているのか。或いは本当に会話を欲しているかもしれないのが、救いのなさに拍車をかけていた。
(昔は素直で良い子だったんだけどねぇ)
喋る婦人の口でうそぶくのもまた虚しい。厭世も葛藤も経験し、ただ口の悪い無駄飯喰らいとなり果てたわけだ。スレてはいるが世間擦れはせず、残ったのは非社交的な自嘲家だけ。
「そうですね、それなら、もしかしたら……」
なりあがりのボンボン、あいにくベル・エポックを楽しむご身分に生まれついてはいない。そんな新興のブルジョワを、高貴なお生まれの面々がどう思っていることか。何、それも当代限りのこと。金を右から左に動かすだけの人間が落ちぶれるのに時間はかかるまい。
「すみません、このあたりで……」
面倒になり、退散する準備に入った、そんな折。
(…………なんだあのガキは)
少し離れた人影から、正確に俺を射止める視線に気づいたのだ。
それも、妖しいオーラをまとった幼女の瞳が。
齢は11か12の、見るからに利発的な娘だった。まだギリギリ性徴を迎えていない儚さをまとい、美しい金のショートに小さな体、ブラブラと椅子から脚を揺らしてこそいる様は子供っぽい。だがそれらすべてを吹き飛ばすのが、企むようなその瞳。燃えるガーネット色のまなじりは、どこか獰猛ささえ醸し出すほどの笑みを浮かべている。俺の未熟さをバカにするような甘いジト目で。
一目で気づく。
このガキはヤバい。
それは同類の勘、などというものでは到底なかった。直感してしまうほどにそのオーラは凄絶で、魅了する幼メデューサと言って過言でない。なんで誰も気づかないのか? 或いは、どうしてそれを隠し通せるのか。子供を演じてはいる。だが、中に詰まっているのは凡そ子供とは言えない、大人というにも毒々しい何か。
「どうなってるんだ近頃のガキは……」
思わず、中年のような言葉が口をつく。
そうする間も、吸い込まれそうなほど美しいガーネット色の視線は注がれ続ける。頬杖を突き、切れ長の目を細めた姿は生粋の女王そのもの。とはいえ、年のほどはまだ11、12を超えるか超えないかのでちんまりとしたガキだ。だからこそ、その妖艶で危険なオーラはひどく肌を粟立たせた。
まるで視姦されている気分だ。
もし横やりが入れられなければ、俺は音を上げていたかもしれない。
「ああ、ヴィーゼのお嬢さんだね?」
親の縁故か老紳士に呼びかけられ、くだんの幼女はパッと子供らしいそぶりにスイッチを切り替える。
途端、ドッと肩の力が抜ける。
イヤなものを見た。
さっさと帰ろう。気づかれて、厄介なことになる前に。
だが、万事ままならないのがこの世というもの。
「ああ、リーデルくんじゃあないか!」
誰だか知らん父の友人に呼びかけられ。
ヴィーゼの会話が終わり。
それから、互いに目が合うと。
“み・つ・け・た♪”、と。
にやーっと目を細めたのだ。突然の色香に、静電気に触れたような感覚が走った。
(……これだから良家のガキは嫌いなんだ)
あまりに不敵な笑み、およそ幼女がまとってはいけない妖艶さ。それが合わさればもはや一種の凄みだった。
挙句、馴れ馴れしく抱き着いてきたのだから、俺は短い悲鳴さえ上げる始末だ。
「おにーぃさんっ♪」
「………………何かな? ちょっとお兄さん今忙しいんだけど、そうだな、あっちのお菓子なんて……」
「噓つき」
「は?」
「こんな下らないパーティで誰が忙しいっていうのよ」
思わず天を仰ぐとはこのことだった。深くため息を吐くと、もう取り繕う気も起きない。
「…………悪いが俺は子供が嫌いなんだ」
「見ればわかる」
「お前な……」
ベルトにしがみつき上目遣いに笑う、その愛らしさときたら。絹糸のような髪を揺らし、大きな目、丸い輪郭、まるで絵から飛び出してきたようだ。
だから、余計にタチが悪い。自分の可愛さを武器にして、俺の喉元にナイフを突きつける。強く出られないのを知っているのだ。
「私ヴィーゼ。知ってるわよね? 貴方は?」
「言いたくない……、イッタっ!?」
集まる周囲の視線を、曖昧に笑ってごまかす。一方、革靴で脛を蹴りつけた当人はニコニコしたままだ。
「私これでも貴族よ?」
「平民でこんな奴いてたまるか……、痛っ! ……リーデルだ、リーデル! 悪いがデュもフォンもついてない。ツーもな!」
権力も暴力も振りかざす。子供だから許されると、解ってやっているのだ。
「そう、なら……、リデ、そう、呼び方はリデが良いわ!」
「勝手に決めるな」
「でもなんだか女の子みたいね♪」
「おい!」
腹のあたりで愉快気に歪む、切れ長の瞳。鼠を見つけた猫のように獰猛で、勝ち誇ったように美しい顔を歪めている。
ダメだ、こいつには敵わない。
俺は観念し、椅子にどっかと腰を下ろす。男を生け捕りにし、幼女も満足げに椅子に座りこんだ。
「この、クソガキめ」
思わず吐いてしまう毒。この先何度も繰り返すとはつゆ知らず、幼女を前に男は呻くだけだ。
「そんな言葉吐いていいの? 私がその気になったらリデのことなんてどうとも出来るのよ?」
「生まれが悪いもんでね」
「ふふっ♪ 貴方みたいにひねくれた人、私好きよ」
「……どう育てたらこうなるんだ?」
「お生憎さま。元からこの通り」
「……悪魔め」
忌々し気に吐き捨て、茶をすする。
一矢報いたい。
そう思い、凄んでみた、
「あまり大人をからかうなよ?」
のだが。
「自分が何を飲んだかも知らないで、何がオトナよ」
「……まさかお前!?」
とっくに俺は、罠にはめられていたのだ。
立ち上がり、俺は慌ててトイレへ駆け出した。盛られたその一服が何かは知らないが、ろくでもないのは間違いない。扉へ、外へ、廊下へ……。人目を引かないように足音は抑えつつ、なんとかブツを吐き出そうと走った。
けれど、それが報われる訳もない。
「そろそろ効いてくる頃かな?」
背後から聞こえる幼い声。それにからめとられるように、突如足を掬われ俺は倒れ込む。そのまま布に覆いかぶさられ、後は暗いぬくもりに呑みつくされるだけ。
「何をした!? おい、どこだヴィーゼ! 返事をしろ!」
「どこって、目の前にいるわよ~?」
「うわっ!?」
体を持ち上げられたと思えば、一気に暗がりの中から放り出されてしまう。呻き見上げる先には確かにヴィーゼがいて、小生意気な目で俺を見下ろしながら──
「…………おい、なんでそんなにデカく、なって……?」
「あら、意外に冷静なのね」
その、400㎝もの身長で俺をまたぎ越していたのだ。大きすぎてカーペットのように広がる俺のスーツを踏みながら、全裸の俺を見下ろしている。いや、もう立つ必要さえない。ソファに腰かけ脚を組み、丸っこいローファーの影を俺に落としていた。
「あの薬か……!」
「そ。よく知ってたね、えらいえらーい」
言葉を失い立ち尽くす、そんな俺をヴィーゼはキャハキャハ笑った。手にした小瓶を振って見せ、俺の動揺を掻き立てるのだ。それは、同じ重さの金にも迫るという値と共に、密かな噂を読んでいた縮小薬。まさか、本当にあったとは。
「ふふっ、すっごく情けない顔してる♪ あんなに偉そうにしてたリデの無様な顔、ちょっとそそるかも……♪」
「こいつ……!」
しっかりしろ。
相手は子供だ。叱ってやるのは大人の責任。大人に叱りつけられて動揺しないガキはいない。
言ってやらねば。
つとめて低く、ゆっくり……。
「戻せ。あまり柄にないことはしたくない」
けれどヴィーゼは、ろくに取り合いもしなかった。
「あら、助けてほしいの?」
「馬鹿言え、勝手に縮めておいて助けるもクソもない」
「口の利き方を知らない虫ね。今ここで私が人を呼んだら貴方、どうなると思う?」
「クソガキ……!」
俺の悪態も涼しい顔で受け流し、ヴィーゼはただ口角を上げるだけ。膝に頬杖をつくその様は、幼くして戴冠した女王にさえ見紛う程だ。
「このっ……!」
俺は思わずその白タイツの脚に掴みかかった。胸倉をつかむように、自分より背の高い柱にしがみつき。
けれど、そんな小男など一蹴り。汚らわしそうに脛の埃をはたくと、ヴィーゼはクスリと小バカにした笑みを浮かべる。
「そんなに戻して欲しいの?」
「当然だ!」
「なら……」
そして、差し出されたのは。
靴を脱ぎ、温い空気をまとった白ストおみ足。
その少し透け赤みがかった足先を付きつけ、ヴィーゼは言った。
「舐めなさい」
「断る」
間髪入れず吐き捨てる。
けれど、それもヴィーゼは織り込み済み。
「言うと思ったわ」
そう言って口の端を上げると、次の瞬間。
「おしおき♪」
「うあ゛っ!?」
襲ってきたのは、車に跳ね飛ばされたような衝撃だった。
横殴りに、その足で俺をビンタしたのだ。ヴィーゼにとっては軽く左右に振っただけのこと。けれど3倍ロリ足ビンタの威力は“ズパンッ!”としなやかに鞭打ち、従僕を吹っ飛ばすに十分すぎるものだった。
「あははっ、無様ね♪」
「貴様……!」
「黙らっしゃい♪」
そう言って、組んだ脚を揺らせば。迫りくる真っ白な足先、 響く“パシンッ!”という鞭音。それは先よりも激しく、俺は“く”の字になって壁に叩きつけられるほどだった。
「ぐ……ッ!」
「だらしないのね。早く起きなさいよ」
「ギャアッ!?」
そう言いつつも、ヴィーゼは足を叩き込んだ。ちんまりとした小さな足も今や巨大な鈍器。そしてグリグリ踵で股間を踏みにじり、俺に立場というものを知らしめる。
「このまま体重をかけたらどうなるか、バカなリデでもわかるわよね? 何千トンもある子供の足で、体へし折られたい?」
「がっ、あああ゛!!?」
丸っこく肌触りの良い足裏が容赦なく俺を圧し潰す。目の前では足指が揺れ、しっとり蒸れ指の形に肌も透けるほど。それで俺の顔をビンタし、のしかかるのだからたまらない。大型犬のように俺に乗り股間を責め、それは拷問というにふさわしい苦痛だった。
だのに。
「…………ヘンタイ」
ゾッとするような視線の先で、小男は。
短い足にしがみつき、汚されながら。
幼女の足責めに悶えていたのだ。
それを見て、幼き女王が弄ばないはずもない。
「……ヘンタイ。ヘンタイ! ヘンタイヘンタイヘンタイ!!」
そう言って、ゲシゲシと踵を叩き込む。そのまま“むぎゅう……っ♡”と圧し潰せば、勝ち誇ったロリの声が俺を囃し立てた。
「あはっ♡ あんたが慌てるの見ると、す¬~っごく愉しくなっちゃう♪ 落ち着いたフリしてこのザマなんだから……、ふふっ♪」
「この……っ!」
ギリギリと体が軋むほどに踏みにじられ足の底、苦々しい言葉を吐くことしかできない。ぎっちりのしかかるのは、ふにふにとした足の感触、幅の細さ、土踏まずの浅さ。それらすべてがロリっぽさを感じさせ、余計に屈辱を煽るのだ。肌触りの良い白タイツを通し、細い足裏が俺を笑う。そして、出られるものなら出てみろと囃し立て。押しのけようとする俺を、絶望的な重量差に俺を打ち負かすのだ。
「……そろそろ死んじゃうわね」
軋む背骨、潰される肺。気が遠くなりはじめ、子供に踏みつぶされて死ぬのかと悔し涙がこぼれた、その段になってヴィーゼは足を上げた。
そして、クスクス俺に語り掛けるのだ。
「ねえ負け犬のお兄さん?」
「……」
「その体はリデには大きすぎると思わない?」
「……は?」
もちろん、ヴィーゼが返事を待つはずもない。
吹きかけられたのは、例の薬。
すべてを奪った、悪魔の薬だった。
「そうね、もっと、もっと小さく……」
しゃがみ込み、追い打ちをかけるヴィーゼ。その白ストのふくらはぎが“ふにぃ……っ”と潰れるのを、俺は朦朧と見上げることしかできない。
それが、高く、高く空へ伸び。
ついには、絨毯の毛さえ俺を包み隠そうとしたとき。
「ふふっ、もう私の指先よりちっちゃくなっちゃったわね♪」
100倍女神と化した鬼畜ロリは、そんな言葉を吐きかけた。