淫蕩の令嬢(下)
🕑 Added 2019-07-31 10:14:42 +0000 UTC
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メイドたち、僕以外のすべての人間は、脅威そのものだった。
最も小さなメイドだって、僕をまるごと踏み潰せる巨大さなのだ。まして中級メイドは手のひらに僕を乗せられて、最上種に至っては足指でさえ僕より大きい。一般人には人形大、拡大種にはガム同然で、最上種にとっては豆粒以下。
そんな僕が、最上位種の館に一人、寄る辺もなく彷徨う日々。
それが、苛烈でないはずがない。
僕は毎日メイドたちの餌食になった。
踏まれた、犯された、汚された。
悪戯で靴に下着に隠され、一日中肉体と下着の間に監禁されるのだ。或いは愛し合う大小のメイドが、僕をディルドにして無茶苦茶にねじ込み合った。お股の中に一日隠されたままだったことも少なくない。
皆競って僕を性玩具にした。
隠れたって無駄だ。僕よりずっと賢い少女たちの目から、どうやって逃げおおせるだろう? 泣き叫びながら僕は追いかけ回され、その先に待ち受けるのはでっかい手か、下着か、開かれた口か。どうしようもない恐怖だけが僕を待ち受けた。
大中小の手が僕に伸びる。昼夜問わず僕を貪り尽くす。それが、巨大女神の殿堂に住まうということだった。羽の生えた天使たちの足の間、僕が虫以下の存在であることを、飽くことなく叩き込まれた。
もう、女の子の匂いは僕に染み着き離れない。
そんな中でも、僕はティナを求めて彷徨をやめなかった。
馬鹿だ。助けてくれっこないのに。
いや、どうせ穢されるならティナ様に、と思ったのかもしれない。いっそ殺してくれるならティナ様に、と。もう、僕自身わからなかった。
どちらにせよ、巨女となってしまったかつての内気な女の子には、なかなかお目通り叶わなかった。僕が四六時中犯されている間、システィーヌ様はアンリ様と一緒。それだけ一層、僕はティナへの想いは高じていった。
そんな、ある日。
僕はメイドたちの手を逃れ、屋外を歩き惑っていた。
逃げる内、そばを通った少女に蹴飛ばされ、無意識の間に放逐されてしまったのだ。
たどり着いた土臭い草原。それは、館の中よりはるかに危険な場所だった。早く戻らねばならない。けれど、戻ればまた恐怖が待っていて……。生い茂る緑の中、哀れな虫はトボトボ歩いた。
ある種のパニック。
僕は無我夢中で歩き回る。
そしてツルリと黒いものにぶつかるまで、僕は頭の中と足元にばかり夢中で、自分がどこにいるか考えもしなかったのだ。
「痛っ……!?」
そびえ立つ黒い物体。高さ数メートルを超えるそれに、僕は隠しきれない既視感を覚える。
磨き上げられた表面はエナメル質。そこに映る自分自身さえ僕は知っていた。
たらりと流れる嫌な汗。
恐る恐る見上げれば。
「…………」
”ジッ……”と温度のない眼差しで、僕を見下ろすアンリと目があった。しゃがみ込み、いつから見ていたのだろう、読めない表情の巨大メイドが小虫を観察していたのだ。
そして、ようやく気づく。
空には色とりどりの花、ここはアンリが趣味で営む花壇に違いない。綺麗に整えられた巨大な植物は極相林の如く、その間から遥かにそびえる主の影は、あまりの高さに霞んでいた。
アンリの花園など、禁足地以外の何物でもない。それを侵したとなれば、ただで済むはずがなかった。
反射的に僕はうずくまる。血の気が引き貧血の余り震えさえする始末。
彼女が花を掻き分けた時、その恐怖はピークに達した。
訪れる、しばしの沈黙。
「……?」
促されるように顔を上げれば。
そこにあるのは、怒気のない表情。
それどころか、微笑んでさえいる!
目を白黒させたのは当然のこと。
そこに他のメイドが訪れた時、僕の混乱はいよいよピークを迎え始めた。
「あっ、アンリ様!」
声に促され、優雅に立ち上がる高貴なメイド。
その立つ間際に、ふわりと僕を摘み上げ。
「なにかご用です?」
「いえ、大したことではないのですが……。あの虫、ご存知ありませんか? どうも逃げ出したらしくて」
「そうですね……」
全ては彼女の胸三寸。僕は白手袋の細指にぎっちり包まれてなお、ビクリと震えを禁じ得ない。
「私は見ておりません。……食料庫は探しましたか? 虫は、そういうところに集まるものでしょう?」
そうですね、と去っていく小さなメイド。
「さて……」
それを見届けると、アンリはゆったりと手を開き。
いつかのように、僕を胸ポケットにしまった。
そして、何事もなかったかのように裏庭から立ち去ると、日々の仕事へと戻っていったのだ。
§
その後も、アンリの奇妙な恩寵は続いた。
僕は彼女の私室、化粧品箱の中に住まわされた。
大木のようなルージュに塔のような化粧水の瓶、化粧の匂いは立ち込めていたけれど、それはかつてのマッチ箱より遥かに贅沢な住処。快適といえる場所ではなかったが、安全な居場所、食事が与えられ、何より他のメイドから匿われる平穏はこの上ない恩恵だった。
裏があるのではと疑うのは、無理もない。
けれど少なくとも、今与えられる幸せは確かで、それが綻ぶことはなかった。きっと、僕のことなど裏切るに値する相手とも思ってないに違いない。なにより、最上位の存在に情けをかけられるだけで、どれほどの光栄か。それが気まぐれであれなんであれ、アンリにすべてを委ねたい。そう思った。
救われた。
その思いが、どれほど僕の胸を打ったことか。
拷問のような日々に、突如差し込まれた平穏。
文字通り、彼女が女神に見えるのも無理はなかった。こんな救済を得れば、誰であれすがりつくだろう。
美しく崇高な女性。高貴な佇まい、どこまでも巨大なその御姿に、僕は心酔していった。
最上位の存在を示す髪色に心奪われた。一般種と中級メイドの金髪さえ見劣りするほどの銀髪は、ティナの持つ同じく黒髪とよく映える。もっとも崇高な女性らの持つ、銀糸の髪色、流れる緑の黒髪を前に、くせ毛の僕はただ見惚れることしかできなかった。
しずしずとした足音が響き、地面が揺れれば、一気に溢れ出る光、空いっぱいに広がるメイドの上半身。その姿に何度崇高を見出したかわからない。その比較を絶した巨大さ、美しさが僕を救い生かす光だった。ショートボブの前髪の奥、ティナと同じガーネット色の目が、僕を見下ろす。まるでものを見るような眼差しに、けれど僕は感動を隠しきれない。
そこに、巨大な女神がいる。アンリ様が見てくださっている。その事実だけで十分だった。
僕を摘む白くすべらかな指先。絹で編まれた布の海は、命を吹き込まれて柔軟に動き、僕を繊細につまみ上げる。僕を見つめる虹彩は燃えるように煌めいて、読めない瞳でジッと僕を射抜いた。しばし眉を寄せ、モノクルをかけて僕を観察し。それから机におろすと、食事を与えるのだ。
その行動の意味を僕は知らない。そもそも、僕を匿う眼目すらわからない。僕じゃ抱えきれない大きな指先、そこに宿る不可解な意志だけが僕をくすぐる。
それでもよかった。もとより、神意は計り知れないのだから。
上位種に庇護される幸運。しかし、幸いはそれだけではなかった。
彼女は、ティナの半身。彼女についていけば、ティナに会えるのは間違いない。
それは非常に大きな希望だった。
それから、幾日の後。
僕はついに、ティナの部屋へ忍び込む機会を見つけた。
それは宵口、アンリが私室へ戻った時のこと。
システィーヌ様がお呼びですと、声がかかった。
「急用で?」
「”相談”、とのことです」
「……わかりました」
その声に僕の心は沸き立つ。化粧くさい箱から這い出して、すぐさま僕はエプロンの裾に飛び乗った。
その服に掴まれば、後はあっけない。
静かな足音。巨大女神によって、僕はたやすく約束の地まで一尾枯れる。
「アンリです」
「……入りなさい」
ドアから漏れる、あの、愛しい声。ついに僕は、ティナちゃんの部屋にまで入りおおせたのだ。
臆病者の僕も、このときばかりは行動的だった。ベッドへ飛び移り、絨毯の海へ滑り降り。おっきなヒールの下をくぐり、すぐさま物陰へと隠れるのに成功する。絨毯の海を掻き分け、ソファの下。ティナの見える場所にまで、苦慮して進み続けた。
令嬢は、晩酌中のようだった。
お酒なんて、そんな贅沢品を僕は見たこともない。対してご令嬢は、いかにも高級そうなシャンパンをテーブルにのせ、優雅にフルートグラスを傾けている。
「貴女も少し付き合いなさないな」
「まだご奉仕は終わっておりませんよ?」
「うふふっ♪ 白々しい嘘は言うものじゃないわよ?」
「では、ご相伴に……」
僕に背を向け、アンリが腰掛ける。そのせいで、2人の姿は椅子に隠れ見えなくなってしまう。目に映るのは、すぐそこにそびえる白タイツの塔、はるか先、ガーターストッキングのおみ足。
それから、2人だけの大人の時間が始まった。
日々のこと、仕事のことに、他愛ない冗談。
羨ましい距離感で、少女2人は語り合った。
流れる会話、織り合わされる2人の声が美しい。
同時にグラスに口をつける主従。
ちょっとした沈黙。
それで、と。若い主人は切り出した。
「それで、虫は?」
「と、おっしゃいますと?」
「他のメイドが居ないって騒いでるわ。貴女、飼ってるんでしょう?」
ああ、とアンリは頷いた。
「手入れが必要かと。棲み着いた虫とはいえ、お嬢様のお持ち物であることには変わりませんから」
「そう。てっきり飼うつもりだったのかと思ったわ」
「ふふっ、お戯れを♪」
ここに来てメイドは破顔し、主人の冗談を笑い飛ばした。
「最低限の振る舞いです。最近くたびれて来たので、少し手入れしているだけですよ。それがお嬢様のメイドとしてふさわしいかと。……それに、メイドたちのオモチャに留めておくのも勿体ないでしょう?」
「さあ、どうかしら。あれきりほとんど見てないものだから」
興味もないけれど、と言ってグラスに口をつける。
「貴女が世話をしている方がよほど不思議だわ」
「強いて言えば、気まぐれです」
僕の前で揺らめく、美女たちの巨大な足。2色のタイツが、右で、左で、語らうに表情豊かに揺れていた。
「だけれど、よく見つけたわね?」
”虫ですか?”とアンリは言い、
「まぁ、ずっと飼っていましたから」
そう続けた。
「飼っていた?」
「えぇ。……まあ、本来アレは葡萄や織物を管理させるためのものです。商いのことですので、お嬢様が知らないのも無理からぬことかと」
そう言いながら、手慰みにワイングラスの縁をこする。
高く、澄んだ音を鳴った。
僕の世界を掘り崩す、崩壊の音色が。
「殖えたので他所では間引いていたのですが、お嬢様とお会いになった虫ですから、一応」
「変なことを言うわね。そもそもあの場所を教えたのは貴女でしょう?」
「あはっ♪ そうでしたっけ? いえいえ、箱入り娘のお嬢様が無知になりはしないかと心配だったもので。虫の存在を知っておくのも、お嬢様に必要なことかと思っただけです♪」
酔ってきたのか、跳ね始めるアンリの口調。
それと共に明かされるのは、かつての日々の舞台裏。僕だけが知らなかった、僕の全てだった。
「これだから貴女は! 全部貴女の仕組んだことじゃない。いつもそうよ、酔わせないと本性を見せないんだから」
「まあ人聞きの悪い。お嬢様のメイドとしてですね……」
「い・い・え! 昔からそう! ツンと澄ました顔をしてアレコレ吹き込むんだわ。子供の頃物怖じするのは私の方だったんだから」
「あははっ♪ そんなこと言って、もう誰も信じてはくれませんよ?」
クスクス笑いながら、幼少の頃を舌で転がすようにアンリは目を細める。そこに映っているティナの姿がどのようなものか、僕にはわからない。
「あの頃のお嬢様も可愛らしかったですよ?」
「やめなさいよ白々しい」
「それに、虫に会わせたあの時! あんなに控えめなお姿、他にありません」
「本当に口の減らないメイドね! ……矮人が居るっていうから、どんな蛮族が出てくるか恐ろしかったのよ。……あまりにも無知なので、ついつい騙ってしまったけれど」
「慣れないことをするから勘違いされるのです。……”幼馴染”でしたっけ? アレが幼馴染なら、一緒に育った私は何になるんでしょうね?」
普段とは違った、ややねちっこい声でアンリは笑った。
そして、気軽に僕の全てを踏みにじるのだ。
運命の出会いはハリボテだった。何一つ、何一つ計算外のことはなかったのだ。唯一の誤算は、僕の一目惚れだけ。それすら錯覚で、空虚。だったら、僕に何が残るのだろう。
「大したマッチポンプだわ。虫を飼って、会わせて、連れてきて。それで今は、貴女の手の中。さぞ懐かれてるんでしょうね?」
「どうでしょう、懐いているのか、餌をやる人間に擦り寄っているのか……。あまりに思考が単調なので、判じがたいですね」
「そんなこと、小人のメイドにでも任せておけばいいのに。それとも、なにか気になることでも?」
「まさか。……矮人はどこまで堕ちた存在なのか、興味があったのは確かですけれど。おかげで、随分楽しませていただけました」
クスクスと笑いを忍ばせて、記憶の中の僕を弄ぶ。その目に映る豆粒、手の中で餌をくらい何も知らず懐く虫が、彼女にはどれほど滑稽に映ったか。実験動物が、毒を試さんとする科学者に懐くようなもの。ヤプーだって、ここまで惨めではない。
同じ人間? 主人と幼馴染? それは大層悪い冗談だった。
そもそも彼女らは、かろうじて人間と呼べる生き物を、特別に、ペットとして、飼っているだけなのだ。
自身の膝にも届かない中級メイド、それは成長しきれなかった未熟児だった。自身の手袋にすら収まる常人のメイド、それは正常に成長出来なかった不良品だった。せいぜい人間に囲われることで価値を持つ、ペット程度の存在だ。自分が大きいのではない。下位種が小さいのだ。幼い頃は、等身大のテディベアを肌身離さず持ち歩いたこともあったろう。けれど今、小人らはコレクションとして生かされるだけの、たかが動くぬいぐるみ。それを囲うのはいわば、動物愛護の慈善事業なのだ。
そこに、豆粒のような虫が?
人間? 幼馴染?
かつて遊んだダンゴムシ、それがある日現れて、”ずっと愛してました”、だなんて。
いまさら出てきた話す虫が、面白くないはずがない!
僕の滑稽さにクスクス笑みを漏らす美少女主従。
「不遜にもお嬢様の名を呼び散らして、何度握り潰してやろうと思ったことか」
「インコの音真似のようなものよ。放っておきなさい。第一、少し会っただけで惚れ込むなんて。最初に見たものを親と思う鳥と同じね」
「理解に苦しみます。同じ時間に居合わせたとて、共に生きたことにはならない。そんな当たり前のことも、虫にはわからないのでしょう」
「思考どころか種族も弁別できない、こんな下等な生き物が同じ姿をしているなんて、屈辱もいいところだわ」
それから一通り笑ったところで。
メイドは、静かに立ち上がった。
「さて……」
そして、周囲が一挙に照らし出されたと思うと。
「お掃除の時間といたしましょう」
高貴なる巨大メイドは、床に転がる虫へ手を伸ばし。
柔らかく雪原に似た手が僕に向かって広げられ。
雪崩の如く襲いかかった。
§
ぴっちり指に張り付く白手袋、その先端。
そこで僕は、絶世の美女2人の眼差しに晒されていた。
「気づかれないとでも思ってたのかしら?」
「もとよりそんな知性はないかと」
2人の甘い吐息の混ざる、その間。僕は泣きそうになりながら、少女の指先で藻掻いていた。
こんな時の感情表現を僕は知らない。ただただ無知な僕は、初恋の少女と思慕した少女の嘲笑の中、虚しくメイドの指を叩くだけ。薄い皮膚、繊細な指、少女のきめ細やかな指は、万力のように僕を挟み、もう下半身の感覚さえ奪い取ってしまっている。対して僕の拳は、指に張り付く布地へ力なくり下ろされるだけ。
……この指は、僕を裏切った巨人の指なのだ。僕は今、敵の、敵の指先に摘まれて、動くことも出来ず囚われている。
絶体絶命だった。もうアンリさえ、僕をイジめる恐ろしき巨女神そのもの。救いはない。ここを出ても、そこは巨人種メイドの巣窟。どこにも行き場はなくて、誰も僕を助けてはくれなくて。そして今、自分の体一つ自由にはさせてもらえない。
僕は両手で身を押し上げようとした。キュッと肌に吸い付く白手袋の中でもがき苦しみ、まるで雪に埋まった下半身を取り戻そうとするようだ。けれど、真っ白な布地の奥に感じる肌の気配、繊細な脈拍は、どこまでも女の子の色彩で彩られている。目を転じて、ぼんやり霞む世界の向こう、僕を見つめる少女の顔立ちを見た時、僕は一層の恐怖に身を震わせた。
「……やっとまともに虫の顔を見たわ」
「お覚えですか?」
「……そうね、少なくとも、人間の顔をしていることはわかったわ」
片眼鏡越しに、2人はもがく僕の姿を観察していた。恐怖と苦痛に歪む小さな生き物、ほんの少しの力加減で高い悲鳴を上げる虫けらを、しっかりその眼で捉えようというのだ。レンズ越しに感じる巨大美女の視線が、僕を焦点にして焼け焦がす。ヒリつくような強い眼差しに、本能的な恐怖を禁じえない。
ガラスの奥、権力と美に輝く虹彩が僕を覗き込む。前なら、僕のかつての面影を探しているのだと錯覚したろう。けれど、違った。今も昔もその視線は同じ。劣等種を、人間未満を見下す女神のそれだった。ティナちゃんが僕を見下ろす。同じ顔、同じ瞳で。どう愉しんでみようか思案するような、あまりの惨めさに哀れんでさえいるような、悩ましく、艶っぽっく絡みつく、美女の視線。指先でこねくり回す仕草すら嗜虐的で、サディスティックな色気さえ感じさせた。
僕は恐れた。そびえ立つ2人の超巨人、まるで美しい城のようなスケールの、崇高な女神様たち……。その間にいて、声も出ないで、ただただその美貌を前に畏怖した。
だのに。
僕は、奇妙な歓喜に襲われてしまう。
意味がわからなかった。だって、僕は今すぐにでも殺されてしまうような境遇だ。裏切られて、裏切られて、辱められて、辱められて。なのにあまりの巨大さは、彼女らの美しさを崇高に見せた。何度も夢に見た美少女が、今や引力さえ感じる巨大さで現れている。それだけで、もう、どうにかなりそうなほど嬉しかったのだ。
「ティ、ティナちゃん! システィーヌ様! 僕です、み、ミヌです! わかりますか!?」
実際、僕はもうどうにかなっていたのかも知れない。
どうしても僕は、歓喜の声を抑えられなかった。
「……ここまで来るといっそ愉快だわ。ここまで次元の違う存在なのに、どういう思考なのかしらね?」
意表を突かれた女神様は、一瞬の沈黙の後、呆れることも出来ず呟いた。
「僭越ながらお嬢様、思考と呼べるほどのものはないかと」
「それもそうね。でもなんでかしら、ちょっと興が乗ってきたわ……♪」
このような状況でも歓喜する僕は、彼女らの眼には未知の生き物となって映ったろう。貴族の娘たちはクスリと笑った。この虫は少なくとも、肥え太った庭の観賞魚よりは楽しませてくれるらしい。
アンリが僕を下ろしてくれる。
重厚なテーブルクロスに沈み込む足、それとともに感じる、ティナちゃんの存在感。
見上げれば、そこには彼女の手のひら一つ分の距離にまで迫った、ご令嬢の姿があった。
ティナが、口角を上げこちらを見る。見ている。見てくれている! 僕はあまりの歓びに感涙さえ浮かべ、一歩、一歩と近づいていった。
テーブルの地平線、そこからそびえる真っ赤なお城のようなお姿。彼女もまた、こちらに注意を向けてくれる。
「じっくり話すのはこれが初めてかしらね? お久しぶり。懐かしいわ」
そして、少し身を乗り出したと思った時。
激震とともに、おっぱいが降ってきた。