琥々の帯締
🕑 Added 2025-08-12 04:39:44 +0000 UTC
「あのバカ虎め……余の邪魔ばかりしよるわ……」
イライラしている中山忠光は廊下を歩いていると琥々を見つけた。琥々は吉村虎太郎にとって大切な存在であることを知っている忠光は、琥々を使って虎太郎に仕返しをしてやろうと考えた。イライラしていることが察せられないよう感情を落ち着かせるため一度深呼吸をしてから声をかけることにした。
「……琥々よ」
「あっ、忠光さま。こんにちは。今日もいい天気ですね」
警戒心のない満面の笑みで返す琥々に、忠光はうっと言葉につまる。この純真無垢な少女を使って仕返しするのはどうなのだろうかと躊躇ってしまうが、その迷いを振り切る。
「……先程菓子を頂いたのだが、よければ共に食べぬか?」
「えっと、ひかりちゃんじゃなくてわたしでいいんですか?」
「ひかりの分は取ってある。遠慮するな」
忠光が優しく微笑むと琥々は嬉しそうに礼をのべながら笑い返した。
琥々は少し緊張した様子で忠光の部屋に入るとキョロキョロと辺りを見渡す。そんな琥々に忠光は小首を傾げ、どうした?と問いかける。
「えっと、忠光さまのお部屋はじめてだから……どこに座ったらいいですか…?」
問いかけに忠光は少し考えてからにやりと笑うと胡座をかいて座り自分の膝をぽんと叩く。
「ここに座るとよい」
「え!そ、そんなことできません!」
「余の命令だ」
命令という言葉に琥々は困った表情を浮かべた。虎太郎から忠光の機嫌を損ねないよう注意されていた琥々は失礼しますと言いながら恐る恐る忠光の上に座った。
「……軽いな。ちゃんと食べておるのか?」
忠光が琥々の腰を両手で掴むと琥々はびくっと身体を震わせた。
「い、いっぱい食べてます、よ……?」
口元を隠しながら恥ずかしそうにうつ向く琥々に忠光は虎太郎や信吾たちがやたらと過保護になる理由がわかった気がした。
「そなた、愛らしいな」
そう言いながら近くに置いてあった饅頭を琥々に渡す。琥々は首をかしげながら饅頭を受け取るといただきます、と言ってからぱくっと一口食べる。口の中にひろがる餡の甘みに琥々はへにゃと幸せそうな表情を浮かべた。
「おひい~……しあわせ……」
「はは! 余の分も食べると良い。そなたの幸せそうな顔を余にもっと見させてくれ」
「そ、そんなに見つめられたら食べづらいです……。でもほんとうにいいんですか? 忠光さまの分まで頂いてしまって……」
「余が良いと言っておるではないか。遠慮するでない」
琥々の頭を優しく撫でると琥々は嬉しそうに笑う。先程のイライラがどこかへいってしまう。そんな穏やかな時間に忠光は癒された。忠光はふと琥々の腰に巻かれたトラの尾を模した帯締が目に入りそれをすっと撫でた。
「ひゃん!?」
突然高い声を出してびくんっと身体を震わせる琥々に忠光はギョッと驚く。琥々は何が起きたのか理解が出来ておらず忠光を見上げた。
「あ、あの、忠光さま……今なにを、」
「あ……ああ、そなたの帯締をこのように撫でただけだが」
忠光は先程と同じように撫でると琥々はびくびくっと身体を震わせた。
「わ、わわ…っそれだめ……っ!た、ただみつさまあ……、撫でないでくださいぃ……」
潤んだ瞳で見上げてくる琥々に忠光はゾクッとした。帯締を掴みしごくと琥々がひゃあっと甘い声をあげて忠光の胸にしがみつく。
「あ、あ……や、や、な、なんでえ……?」
「そなたのその可愛らしい声、もっと余に聞かせてくれぬか?」
「ふぇ……?や、あっあう……ん…った、たすけ……っふあ、あんっ!?」
琥々はかあああっと恥ずかしそうに口を手のひらで覆う。琥々がどんな仕草をしても忠光の興奮材料にしかならなかった。
「琥々」
「ひゃうっ」
忠光が琥々を押し倒すような形になり、忠光が琥々の頬に手を添えられる。『忠光の機嫌を損ねてはいけない』、その言葉が頭から離れない琥々は忠光を突き飛ばすことや逃げることが出来なかった。自分ではどうしたらいいか分からずぎゅっと力一杯目を瞑った。
「琥々チャンに何をしているのかな?」
聞きなれた声に琥々がばっと目を開けると虎太郎が忠光を笑顔で見下ろしていた。忠光は虎太郎をみると舌打ちをしながら渋々と琥々から離れた。
「貴様の空気の読まなさは相変わらずだな」
「おや、お褒めの言葉光栄だなあ」
「褒めておらぬわ!! 気分が悪い……さっさと去ね!」
「言われずとも去ります。さあ、いこう琥々チャン」
虎太郎は琥々をそっと抱きあげ、失礼しますと一礼して部屋から出た。
「と、とらさん……」
「危なかったねえ。間一髪ってやつだ」
「……とらさん怒ってる?」
虎太郎は琥々に言われぴたりと足を止める。
「うーん、怒ってないよ。キミが無事で本当に良かった、ただそれだけさ。今後はお菓子にホイホイ釣られないようにね」
「は、はあい……」
しょんぼりと落ち込む琥々の背中をとんとんと叩いた後にそっと帯締に触れた。
「ひゃんっ!?」
琥々は再び口元を抑える。虎太郎はうーんと唸りながら帯締を離した。
「……これはなかなかくるかもしれない」
「な、なんか触れられると身体がびくびくってなっちゃって、くすぐったいというか、なんというか……うまく説明できない……」
「しかしこの紐危険だね。琥々チャンのからだの一部じゃないよね?」
「これ普通の紐だよ?トラ柄だけどわたしのおしりからはえてるものじゃないのに……」
「ここが琥々チャンの弱点だったんだねぇ」
「……ねえ、とらさん。何で楽しそうなの?」
「ふふ、さあね」
身震いする琥々に虎太郎はくすっと笑った。